2020/02/11

Tamed Spider -前編-





「エルマは一体何がしたいの?」




「あなたのその……『クロゴケグモの呪い』を使って」







several years ago...










『ああ、愛しているわ! エルマ!』



『あなたが何者でも構わない』
『こんな家も名前も要らない』
『あなたのためなら何もかも捨てたっていい!』



『だからエルマ、どうか……』
『わたしを離さないでいて……』









「……そして、『レディ・バローネ』は『エルマ』に持てる財産の全てを与え、一族の没落を招く……という筋書きか」




「本物のエルマ先生はお気に召さないでしょうね? 現代の安っぽいテレビドラマなんて」
「いいや、」




「なかなか面白いぞ。教え子が虚構の『私』を演じる様は」




「それと、この相手役の女優はお前の事を好いているな。台詞のいくつかは演技でなく本心だ」
「そう……そうかしら」




「試してみるといい。いずれ『一人目』が死んだ後にでも」




「…………」




「クロゴケグモは誰であれ、その者と愛し合い、後に殺す……」




「そう――誰であれ。男でも女でも。老いも若きも、愛し合う筈の無い立場の者であっても、必ず」




「それが私の運命、クロゴケグモの『呪い』……」




「お前はそれを『呪い』だと言う。何故なら既に『愛し合って』しまったから……違うか?」





「愛しい男の命が尽きるまで時が無い事を知りながら、その日を待つのはただ辛いだろう」




「――だが、」




「お前の演じた『エルマ』ならどう思う?」




「『私』ならこう考える。このクロゴケグモの『力』があれば、何だって思うがまま」




「自身の魅力でおびき寄せたつがいを殺し、その者の全てを己の糧とする」
「クロゴケグモはそうして生きる。この運命は、己自身のためにこそ使うべき武器に他ならない」




「それなら奪え。地位も名前も財産も……そして、」








「『血』も?」
「そうだ。あの忌むべき血も」




「解っているな? 私の見込んだクロゴケグモ」




「愛しい者の死を恐れるな。恐れずにその者を愛し、奪え。奪い続けろ」




「奪い続けた果てに……いずれ、お前が最後に結ばれる男の名は——」












© simensoka
Maira Gall