2019/05/03
レーナのために
私はしがない無名女優。
だらしなく肥えた体型というコンプレックスを持ち味に、お調子者の着ぐるみやブスの道化なんかの端役をもらってどうにか食い繋いでいる。
あるドラマで演じた役は、ミステリアスな悪い侍女に唆されて家の乗っ取りを許してしまう、さる名家の令嬢の役だった。
誰からも愛されないほど醜く愚かな令嬢は、その美しい侍女の甘い言葉に誘惑されて、すべてを彼女に明け渡してしまうのだ。
彼女が恐ろしい力を持つ魔女「エルマ」であることも気づかずに。
侍女を演じたのはマグダレーナ。私は親しみを込めて彼女を「レーナ」と呼んでいる。
彼女と私のラブシーンは、女同士ということもあり当時大きな反響を呼んだ。
スポットライトを浴びるのはいつだって、レーナのような類い稀なる美貌と迫力の持ち主でなくてはならない。
醜いデブであってはならないのだ。
……ともかくあのドラマの成功は、私の親友であるレーナの名声を一気にスター女優へと押し上げた。
その後も多くの映画やドラマで主役を飾るようになったレーナの栄光に、終わりは来ないと思っていたけれど……
「貴女のせいじゃない」とレーナは私に言った。
「だって私達、何も無かったじゃない? 彼が勝手に馬鹿な勘違いをして、馬鹿な真似をして死んだだけ」
「……あのドラマの私の演技が上手すぎたのかな」
「あのドラマ?」
「レーナは悪い魔女の役で、私はレーナに惚れるお嬢様の役だった」
「ああ……確かに旦那もあのドラマは観ていたわ。懐かしいわね」
「『懐かしい』? 私は今でも、あの時のレーナのことが忘れられないのに」
「エルマ」という魔女は本当にいるのかもしれない。
私にとって、レーナはそう信じさせるほどの魅力的な女性であることを、頑なに喪服姿を解こうとしない彼女に初めて打ち明けた。
「ありがとう」と彼女は微笑った。
その夜、私はレーナのために名前を捨てた。











